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 平成29年度採択の文部科学省科学技術人材育成費補助事業「ダイバーシティ研究環境実現イニシアティブ(牽引型)」は、大阪市立大学(代表機関)、大阪教育大学、和歌山大学、積水ハウス株式会社の連携機関で取り組みを開始し、4年目を迎えます。この補助事業の中間総括としてこれまでの成果を報告し、海外の先進事例からさらに取り組みを進展させることを目的として「2020年度ダイバーシティ研究環境実現 中間総括シンポジウム」を2月26日(金)にオンラインで開催し、約300名が参加しました。

 シンポジウムの開会挨拶では、4機関長がそれぞれ登壇(一部事前撮影動画)し、荒川哲男学長も機関長として挨拶を行いました。

事前撮影動画にて各連携機関長とともに挨拶を行った荒川学長

【講演①】「不可能への挑戦:UCLにおけるアテナスワン顕彰~A Success Story 」
      ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン(UCL)
      総長付ジェンダー平等特使、分子細胞生物学医学研究所 教授 Sara E Mole
【講演②】「科学、工学、医学分野におけるジェンダー・エクイティの発展」
      ウィスコンシン大学 マディソン校
      WISELIディレクター、医学部教授 女性健康研究センターディレクター Molly Carnes


第1部 講演会>

Sara E Mole 教授

 第1部では、Sara E Mole氏(ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン(UCL) 総長付ジェンダー平等特使、分子細胞生物学医学研究所教授)がイギリスで創設されたジェンダー平等推進のための大学の認証制度「アテナスワン顕彰」を通じた取り組みの成果について講演しました。分子細胞生物学医学研究所は、UCLで初めてのアテナスワン顕彰の銀賞と金賞を受賞し、キャリア開発のトレーニングを女性の80%近くが受講し、セミナーシリーズの女性講演者の人数を最大で50%に増加させました。
 UCLでは、学部・学科で39の受賞実績があり、申請過程で明らかになった男女の昇任比率の格差を解消するために、2017年には昇進基準の改定を行った結果、女性教授職比率が30%以上に向上しました。Mole氏は「私たちの働き方が次世代の標準になり、彼らが昇進したときに、ともに優れた実践を実行できるようになれば」と話しました。

Molly Carnes教授

 続いて、アメリカのMolly Carnes氏(ウィスコンシン大学マディソン校WISELIディレクター、医学部 教授、女性健康研究センターディレクター)は、「色の名前と文字の色があっていない場合には、無意識に何色かを認識するために情報が干渉し合って、色の名前と文字の色があっているときと比べて読むのに時間を要する」というストループ効果を例に出しながら、「ジェンダーの固定観念は、人々の暗黙的バイアスに影響を与え、意識的な意図を狂わせることがある」と話し、ジェンダーの固定観念がもたらす様々な女性のキャリアの障壁の事例を挙げ、その解消方法について、研究・調査をもとに説明しました。


<第2部 パネルディスカッション

 第2部では、「女性リーダー育成と上位職登用の現状と課題」についてのパネルディスカッションが行われ、下記のパネリスト、ファシリテーターが参加しました。

  • ファシリテーター:大阪市立大学 副学長 池上 知子
  • パネリスト:  大阪教育大学 学長補佐 鈴木 真由子
            和歌山大学 副学長 添田 久美子
            積水ハウス株式会社 住生活研究所長 河崎 由美子
  • アドバイザー: UCL Sara E Mole
            ウィスコンシン大学 Molly Carnes
  • モデレーター: 大阪市立大学 女性研究者支援室 プログラムディレクター、特任准教授 西岡 英子     

パネルディスカッションの様子

 大阪教育大学鈴木学長補佐は、上位職登用・リーダー育成の仕組みづくりについて、「人事選考委員会の男女比率に関する規程が明確に定まっておらず、どちらの性にも偏ることがない規定の改正が必要」とし、フロア(視聴者)からの「教育が重要」という意見に対し、「大学の研究環境実現のためダイバーシティの取り組みを進めていくと同時に、教員養成大学の役割として、アンコンシャスバイアスやダイバーシティについて、学生の基本的な学びのなかに今後も一層重要なものと位置づける必要がある」と述べました。

 和歌山大学添田副学長は、「大学の業務は、研究・教育だけでなく多様化しており、多様な業務に多くの女性が関わっています。こうした女性の働きを正当に評価するために、今年度から研究・教育だけでなく、多面的な教員活動評価を導入しました。また、上位職登用の仕組みとして、教職員が大学運営を学ぶ『学長室』を設け、女性も相当な割合で配置しました。管理職にしり込みしがちな女性が自信を持てるように後押しする場にしていきたい」と話しました。

 さらに、積水ハウス株式会社河崎・住生活研究所長は、「2014年度には女性管理職が101人だったのが今年度は239人に増えました。育児中のキャリアロスを防ぐためには、上司の理解が必要であるため、男女の育児者と上司が職場での理解を深めるフォーラムも開催しています。職場全体で、子供を育てる社会に対し、優しく協力できる雰囲気が醸成されています。また、『ウィメンズカレッジ』のような確実に女性を引き上げる管理職養成プログラムなどにより女性管理職が生まれる土壌もできています」と現状を報告しました。

 

Sara E Mole 教授とMolly Carnes教授から意見を聞く様子

 Mole氏は、「UCLでは大学での貢献を重視したシティズンシップ(市民性)の評価を新たに導入しています。昇進基準を変えることで、女性だけではなく、これまで昇進できなかった男性も昇進できるようになりました。さらに黒人女性など、恩恵を受けてこなかったグループに目を向けることが重要です」と意見を述べました。またCarnes氏は、「ジェンダーの固定観念があるために、育児や介護をしている男性への評価が低いという実態もあります。例えば、25%の教員がバイアスリテラシーのワークショップ参加し、バイアスの習慣を変えるだけで、行動規範が変化します。バイアスに気づき、行動を変え、職場の風土を変えることが重要です」とアドバイスをしました。