平成30年9月20日(木)(13:00-14:30)、大阪市立大学杉本キャンパス 学術情報総合センター10階研究者交流室において、「グローバル・ユース・アンバサダー・リーダーシップサミット2018報告会」を開催しました。

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【会場の様子】

 この報告会は、女性研究者の研究力の向上、なかでも特に国際力の向上を目的とし、本年が2年目となる文部科学省 科学技術人材育成費補助事業「ダイバーシティ研究環境実現イニシアティブ(牽引型)」の一環として開催されたものです。

「グローバル・ユース・アンバサダー・リーダーシップサミット2018」は、大阪市と姉妹都市提携45周年となる米国シカゴ市で本年7月に開催されたもので、シカゴ市および28の姉妹都市出身の14から16歳の女子を対象とした、次世代のグローバルリーダーを育てる集中型リーダーシッププログラムです。今回の講演者久末弥生教授(大阪市立大学大学院都市経営研究科)は、現地で大阪市代表の女性研究者のロールモデルとしてプレゼンテーションを行い、学生たちと意見交換を行ってきました。

 久末教授は、今回の講演の中で、「リーダーシップサミット」でのプレゼンテーションを英語で再現し、日本語での解説を加え、現地での女子学生達との交流の様子等を報告されました。また、本学の女性後期博士課程生2名の発表もあり、更に、本学の男女共同参画担当副学長の池上知子教授(大阪市立大学大学院文学研究科)をファシリテーターとした質疑応答の時間も設けられました。

■ 講演IMG_5524

  久末弥生教授(大阪市立大学大学院都市経営研究科)
  タイトル: 『My way of life as a woman legal scholar』

 プレゼンテーションに先立ち、久末教授から、現地での短い滞在期間中、 「リーダーシップサミット」への参加だけでなく、シカゴ市長表敬訪問やイリノイ 大学シカゴ校とのランチミーティング等、精力的に交流を深めた様子が報告されました。

 英語でのプレゼンテーションは、久末教授自身の若い頃の経験と、女性のキャリア形成についてのアドバイスを中心とした内容でした。高校時代、米国でホームステイした時の貴重な経験が後の進路に大きな影響を与えたこと、若いときの経験は、たとえそれが苦しくても将来必ず役に立つことを、興味深いエピソードを交えながら話され、「情熱を持ち続けて頑張れば、必ず道は拓ける」との力強いメッセージが聴く者に真直ぐ伝わってきました。

 久末教授はまた、両親という存在についても触れ、母親は最も良き理解者、父親は仕事について貴重な意見をくれる存在であり、そのアドバイスに耳を傾けるべき、との考えを話し、参加者の共感を呼んでいました。  

 「リーダーシップサミット」に集まった女子学生たちは皆、各国での厳しい選抜を勝ち抜いてきた非常に優秀な学生たちで、会場では久末教授のプレゼンテーションに熱心に耳を傾け、活発な質問や相談が相次いだとのこと。久末教授からのアドバイスにもあったように、彼女たちは、今回のシカゴでの経験を絶好の機会として活かし、次世代のグローバルリーダーとして育っていくことでしょう。

■ 発表者1IMG_5541

  永井 泉さん(大阪市立大学大学院文学研究科 後期博士課程2年)
  タイトル: 『研究活動について―社会人院生の立場から―」』

 社会人学生の永井さんは、明治から昭和の時代を生きた女性の歌人 片山廣子について研究を進める傍ら、子育てにも忙しい毎日を送っています。「片山廣子は明治という制限された時代の中で、翻訳を手がける等 海外への視点を持って活動していたことが興味深い」と語る永井さんは、昨年8月イギリスで開かれた学会に参加して「女性詩人」というセクションで発表する機会を得ました。その際お子さんを伴って渡航し、現地でネットを通じて個人の託児サービス(保育ママ)を見つけ利用した体験が紹介されましたが、イギリスでの託児システムの充実ぶりを象徴するエピソードとして大変印象的でした。

「研究と子育ての両立のためどうしているか」との会場からの質問に対して、「本大学内にある杉の子保育園の存在が有難く、時々一時保育を利用している」との答えがありました。女性研究者として研究と子育てを両立しているロールモデルとしての話は、将来研究者を目指す女子学生にとってたいへん参考になる内容でした。 

■ 発表者2IMG_5584

  松溪 智恵さん(大阪市立大学大学院生活科学研究科 後期博士課程3年)
  タイトル: 『広く、長く興味を持つ:グローバルな視点を持って 研究する上で心がけていること』

 障害がある人の「生活」を支える制度について、働きながら研究を進める松溪さんからは、どのようにしてグローバルな視点を育んできたか、を中心とした発表がありました。

「学部時代、アドバイザー制度(定期面談)で出会った外国の先生から、『いろんな形の生き方がある』という進路選択の多様性を示してもらったことが、その後の進路に大きな影響を与えた」と語る松溪さんは、修士課程修了後、福祉の実践現場で働き、その後「やはり福祉の研究がしたい」との想いから、後期博士課程に進みました。現在は、北欧、特にスウェーデンと日本の福祉制度について比較する研究を進めており、本年6月にはスウェーデンの学会で日本の障害者制度について発表を行いました。その際、本学の女性研究者支援室が提供する「女性研究者外国語論文校閲・翻訳費用助成」を利用したことに触れ、「大変使いやすく、ありがたい制度だった」との紹介がありました。

 グローバルに活躍するために必要な英語力について、「博士課程で求められる英語力は、自分の研究を伝えるためのもので、今後益々勉強を続けていきたい」との話が印象的で、参加者は熱心に聞き入っていました。 

■質疑応答の時間IMG_5622

 冒頭、池上教授から3人の報告に対するコメントがありました。

「それぞれの分岐点で悩みながら、それでも研究を続けたいと一貫した道を歩んで来られた、という共通点が3人の方にあるように思いました。あらためて、他分野でも頑張っておられる方がいるな、と感銘を受けました。」

*久末教授に対して:「父母のアドバイスを聞きなさい、というお話が新鮮で、共感するところが多々ございました。」

*永井さん、松溪さんに対して:「回り道をしながらいろいろな経験を積んでこられたお2人の話から、自分も学ぶべきところがあると感じました。研究から一旦離れることがあっても、またやりたいと思えば、何度でも戻ってきて研究を再開できる。その際に、研究から離れていた時間に得た経験が糧となっており、人生において回り道することはけっしてムダではない、と感じました。」

*3人への質問:「各分野におけるジェンダー平等について」

・法律の世界では平等の観念を勝ち取ってきたが、女性の絶対数が少ないことが課題である。
・文学界では思ったより男性が多いが、児童文学の世界では女性が圧倒的に多く、研究領域として男性から軽視される傾向があるのではないかと感じる。
・福祉の分野では、現場は女性が多いのに対し、アカデミア(研究活動の分野)では男性が多く、学会の理事等は男性が多数を占めている、というギャップがある。

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【質疑応答の様子】

■参加者からは、次のような感想をいただきました。

・職場では得られないグローバルな視点と活躍のお話が聞けて、大変感動した。
・様々な困難を抱えながらも数多くの業績を上げておられる先生方を見て、益々精進しなければならないと思った。
・研究テーマを選ぶことの大切さや、英語論文を読む必要性について考えるきっかけになった。
・研究者としてのキャリアのあり方に刺激を受け、研究テーマのみならず、日頃からグローバルな視点を持つことの重要性などを感じることができた。