Home > インタビュー > Researcher > Vol.14 新ヶ江 章友先生

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Profile

2006年筑波大学大学院人文社会科学研究科現代文化・公共政策専攻修了。博士(学術)。カリフォルニア大学バークレー校人類学部客員研究員、財団法人エイズ予防財団リサーチレジデント、名古屋市立大学男女共同参画推進センター特任助教などを経て、2015年より大阪市立大学大学院創造都市研究科准教授。専門は、ジェンダー/セクシュアリティ研究、文化人類学(医療人類学)。

1.研究との出会

多様な生き方をこの社会の中で創造する

大学生のときは現代思想を専攻していて、特にフランスの哲学者のミシェル・フーコーに興味をもって勉強していました。卒業論文もフーコーをテーマに書こうと思っていたのですが、指導教官の先生がサバティカルでフランスに行かれてしまったので、文化人類学の先生からの勧めもあって、エイズの研究を人文社会学的視点から始めました。このあたりの経緯については、2016年の夏に出版予定の椎野若菜・的場澄人編『FENICS 100万人のフィールドワーカーシリーズ第12巻 女も男もフィールドへ』(古今書院)に書いていますので、興味のある方は手にとってお読みいただければと思います。

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これまでは、日本の男性同性愛者がどのようにしてこの社会の中で生きているのかについて研究してきました。このテーマに興味を持ったのは、一つはフーコーとの出会いを通してでした。フーコーは同性愛者で、彼の伝記には、青年期に自分の性の問題といかに苦闘しながらそれを学問に昇華していったのかが生々しく描かれており、大学1年のときにそれを読んで衝撃を受けました。日本においても同性愛はタブー意識が強く、小学校、中学校、高校でも、同性愛については誰も教えてくれません。このような社会の中で同性の人を好きになったら、絶望して生きなければなりませんでした。結婚して子供を産むことが「自然」だと社会では考えられており、たとえ同性を好きになったとしても、これからどうやって生きていけば良いか全く分かりません。私はこの点に興味をもち、日本で同性のことを好きになった人たちがどのようにして生きているのかを、文化人類学的手法を用いて調査を行ってきました。フーコーは、同性愛者として生きていくことは、これまでの社会制度のあり方とは別の生の様式を生み出していくことだと言っています。私も、決まりきった一つの生き方ではなく、多様な生き方をこの社会の中で創造していくことがどのようにして可能かに興味があります。

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必ずしも王道でなくとも

私は2015年に大阪市立大学に赴任しましたが、大学院を修了したのが2006年なので、ポストドクターの期間が結構長かったです。多分大学院のときの指導教官の先生は、私に早く博士論文を書かせて社会に「追い出し」、社会経験を積んだ方が良いと判断されたのだと思います(笑)。今思うと、指導教官の先生の判断は、いつも正しかったと思います。アメリカへの留学を強く勧めたのも、この指導教官の先生でした。私が就職するまで、本当にいろいろと支えていただきました。

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『日本の「ゲイ」とエイズ  コミュニティ・国家・アイデンティティ』
(青弓社、2013年)

 

 

 

 

 

 

 

 

文化人類学者は普通、自分が生きてきたところとは違うアフリカ、オセアニア、アジア、アメリカなどの文化の中で、最低でも2年間のフィールドワークを行います。私の場合は日本がフィールドだったので、必ずしも文化人類学の王道のフィールドではないのですが、しかし別の意味で、私がこれまで生きてきた人文社会科学系の文化とは異なる医学系の文化の中で調査研究を行うことになったのです。大学院を卒業後に、医学系の研究室で研究員を4年間弱行いました。この研究室は、日本の男性同性愛者に対するHIV感染予防プログラムを作っていました。私も、仙台、東京、名古屋、大阪、福岡、那覇の男性同性愛者に向けたHIV予防を、コミュニティの人たちと一緒に行ってきました。ここでの経験が、私自身を強くしたと思います。

その後、今度は大学で男女共同参画の仕事を行いました。私の専門はジェンダーでしたが、実際に社会でジェンダー平等のための施策がどのように行われているのかを、実務面で経験することができました。これらすべての経験が、今の大阪市立大学での教育・研究に生かされていると思います。

 

2.ほっとするとき・こと・ものは?

金曜日の午後、どこからともなく音楽が

一泊二日くらいの小旅行が好きです。私は車の免許をもっていないので自分で運転はできないのですが、バスや電車などでのんびりといろんなところに行って、温泉に入ったり、地元の美味しいものを食べ歩いたりするのが好きです。関西とはこれまであまり縁がありませんでしたが、半年住んでみて、いろいろと面白い場所が多いなと思います。少しずつ制覇していきたいと思います。

あとは、ホームパーティーをするのも好きです。アメリカに留学していたときは、金曜日の午後になるとどこからともなく音楽が聞こえ、バーベキューが始まっていました。よくもまあ毎週毎週、雨の日も風の日もパーティーをやるなあと感心しました。名古屋にいた頃には、季節ごとによくホームパーティーをやっていました。花見パーティー、浴衣パーティー、クリスマスパーティー、鍋パーティーなどなど。料理をしてみんなでワイワイ食べたり飲んだりするのが大好きです。

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3.後進へのメッセージ

今、「にっちもさっちもいかない」ひとへ

大学や大学院時代は、いろいろ楽しいこともあれば辛いこともあると思います。今、「にっちもさっちもいかない、自分の人生は絶望的だ!」と苦しんでいる人がいるかもしれませんが、そのような悩みも、時と場所が変わって、それを別の視点から見られるようになれば、全く別の意味と可能性に満ちていることがあります。一つの生き方でのみ考えるのではなく、多様な生き方があるのだということに気づかせてくれるのは、あなたのまわりの友達であり先生であると思います。大学で出会った友達は一生の友達になると思いますので、大学時代は惜しむことなく友達を作って下さい。悩みは、時間が解決してくれることもたくさんあります。

また、大学院に通いながら研究者を志す人へ。研究をするということは、常に悩み続けることだと思います。この研究テーマで大丈夫なのだろうか、このまま自分は就職できないんじゃないか、と大学院生時代、そしてポスドク時代は鬱々とすると思いますが、やるべきことをきちんとこなしていけば、自然と道は拓けてくるものです。まずは、逃げずに取り組むことではないでしょうか。研究者にとって最も重要な素質は、謙虚であることだと思います。

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