Profile
2001年関西学院大学理学研究科博士課程後期課程修了。博士(理学)。日本学術振興会特別研究員(DC2、PD)などを経て、2004年1月より大阪市立大学理学研究科に博士研究員として勤務。2010年より大阪市立大学複合先端研究機構 特任准教授、2013年より現職。2011年より(独)科学技術振興機構(JST)さきがけ研究員を兼任。2009年、2014年に産休育休をそれぞれ取得。
経費のかかる問題児
小さい頃からチクチクと細かいまとめを作ったり絵を描いたりするのが大好きでした。研究者という職業に魅力を感じたのは、好きな事に没頭できる(はず)、と思ったからです。でも何をやりたいかは決められず、学生時代はたくさんの授業に出ました。特に実験科目は楽しく、化学科でしたが物理、地学、生物の実験を履修しました。3回生の物理化学実験で、ほうれん草から色素を抽出し、カラムクロマトグラフィーで分離した時のカラフルで綺麗な色に魅せられ、面白そうだなと思いました。私は粗忽者で、学生実験では器具破壊の女王でしたが、成績は良かったので落第もさせられず、経費のかかる問題児だったと後で聞きました。
カロテノイド carotenoid の働き
光合成というと緑の葉が太陽の光で二酸化炭素とデンプンを作る事を思い浮かべると思います。太陽の光を取り込んで植物が使いやすい形に変える働きをするのが「光合成色素」です。その中には青いクロロフィルや黄色いカロテノイドがあり、私は主にカロテノイドの働きについて研究しています。ワカメ、モズクやヒジキなどの海藻は褐色や黒っぽい色をしていますが、これも同じような色素群を使って光合成をしています。ただし、タンパク質にカロテノイドが結合すると黒っぽく見えます。ワカメをゆでると鮮やかな緑色になるのは、カロテノイドがタンパク質から外れてもとの色に戻るからです。エビやロブスターをゆでると鮮やかな赤色になるのも似たような仕組みです。このような色が変わる仕組みに興味を持って研究しています。
Life with Science
卒業研究の年の夏に、スコットランドのグラスゴー大学に1人で1ヶ月滞在して研究をさせて頂いたことは、その後の研究活動に大きな影響を与えました。研究室は厳しくて有名で、学生には全く人気がありませんでしたが、限られた装置の奪い合いで早朝から深夜まで人がいて、警備のおじさんと仲良くなったり、常に外国人留学生がいて話題に事欠かなかったり、外国の先生が次から次へと滞在したり、国際的で活気のある研究室でした。そのなかで出会った女性研究者の言葉で印象に残っているのは、“Life with Science(研究は我が人生とともに)”、という言葉です。生涯をかけて研究と向き合いながら、結婚して子どもを持ちたいと思うようになりました。
「データを示せ」
M1の1月に阪神大震災で大学は半壊し、就活どころではなかったという事もあり、研究成果はほとんどでないまま、わりとなし崩しで進学しました。同じ研究室の同学年4人のうち3人が進学し、他の2人は着実に成果を出していたので、焦りながらも良い刺激を受けました。実験手法で教授の意見よりも私の考えた方法がより良いと思うのに、討論で「データを示せ、無いなら経験のある私に従え」と言われてぐぅの音も出なかった時、「教授のいる日中は討論で決めた実験を行い、夜にこっそり自分の考えた実験を行ってデータを示してやれば?」と言って、同級生(のちの旦那!)が分析を手伝ってくれました。次の討論でデータを示しながら同じ意見を言うと、教授はあっさり「そうかそれはいいね」と納得してくれました。思えばこの時初めて「きちんとデータを示せばどんな人も説得できる」事を実感しました。これが私の原点にもなっています。
何もかも嫌になってとりあえず休暇
学位を取った後も就職がうまく行かず、ずるずると博士研究員として同じ研究室に居続けました。でも子どもが欲しいならそろそろ結婚しないと、と考えて結婚宣言をしたら、今期で契約更新しない旨を宣言されました。これはハラスメントでは?と思いながらも、何もかも嫌になってとりあえずしばらく休暇を取り、カウンセリングを受けたり親の元を訪れたりしました。復帰後も微妙な気持ちで、就職活動をする暇もない忙しさの中で結婚の準備をしていましたが、結婚式の前日、市大に博士研究員として就職する事が決まりました。おかげ様で結婚式は晴れやかな気持ちで迎えられましたが、この間、両親、特に母親には多大な心労をかけてしまいました。旦那も任期付の研究職だったので、「どちらかが正規雇用されたら、それで良しとしよう」というおおざっぱな人生計画をたてました。
ワーク・ライフ・バランスを考える
結婚した後も研究第一で、学生時代と同様に研究に没頭していました。良い成果を出すまではと気張っていましたが、なかなかうまく行く訳でもなく、市大に就職して5年目に第一子を授かりました。難産だったので、もとの元気を取り戻すには3年近くかかりました。その後もずっと市大で博士研究員や特任を続け、9年目に准教授として正規雇用されました。1年後に第二子を授かり、今に至ります。
ワーク・ライフ・バランスを考えだしたのは、子どもが産まれてからでした。子どもを通じて地域との関わりがうまれ、やるべき事はどんどん増えていきますが、世間知らずで社会科がとても苦手だった私にとっては新鮮で、政治経済など世の中の流れに興味が出てきました。
今では、優先順位は子ども、仕事、研究と考えています。「自分で納得がいくまでコツコツと時間をかけて実験をする」スタイルは不可能になりましたが、学生さんや支援員さんに助けてもらいながら研究ができる事に幸せを感じています。
休日の方が忙しい!?
- 息子と遊ぶ:最近は小2の息子の話を聞いたり、本を読んだり、2人で0歳児の末っ子をあやしたりしています。
- 床の拭き掃除:肩こりにも良いそうです。
- 縫い物:チクチクするのは本当に大好きなので、名前ふだ・ぞうきん・繕い物などを機会があれば手縫いします。
- アイロン:危険なのであまりしませんが、好きです。
- バジルの栽培:知り合いの名誉教授のバジルドレッシングに感動して、種を頂いて自分で栽培を始めてからはや4年。土いじりと収穫、調理は楽しいです。冬には枯らしてしまうのですが、夏の収穫でジェノベーゼとして冷凍保存すると一年分はあります。息子も「ママの緑のパスタ」が大好物です。今年も大きくなぁれ。
- 歌を歌う:家では偏った選曲の好きな歌をずっと歌っているようです。ピアノは弾かなくなってしまいましたが、息子と一緒に歌うのも楽しいです。
- 本を読む:最近好きな順に、加納朋子、Iアシモフ、夏目漱石、LMモンゴメリ、妹尾河童、山崎豊子、JRRトールキン、CSルイス、など。
研究者さんたちとの交流
- 飲みにケーション:学期末の打ち上げや飲み会での交流は得る所が多く大好きです。時間が許す限り参加します。
- お昼ご飯:行きつけの ○△§※∞ での井戸端会議は、大切な息抜きです。身体が資本なので、忙しくてもご飯休憩は自分に許せます。相手も休憩中なので話しやすく、様々な先輩研究者さんたちとの出会いもあり、私にとっては貴重なロールモデルの宝庫です。
「自然体」を大切に
結婚はある程度計画できても、出産、育児は計画通りにいかない事だらけです。特に出産には、女性特有の不自由さがあります。その中で研究を行おうとするのですから、うまくいかなくても当然なのです。ですから、柔軟に考え、その時出来る事を最大限やる、という「自然体」の構えを大切にしたいと思っています。
研究を一生の仕事にしたいと強く感じたならば、女性だというだけであきらめずに、研究者への道を進んでみてはいかがでしょうか。多様な立ち位置の人が研究に携わり、多様な視点を取り込むことは、きっと科学の発展に貢献することになると信じています。