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Vol.8 齋藤直子 先生

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Profile

1973年生まれ。2007年、奈良女子大学大学院人間文化研究科にて博士(学術)取得。専門は、社会学。部落問題研究と家族社会学の観点から、部落出身者への結婚差別問題について研究している。

1.研究との出会

「人権問題は、語ってはいけない」?

子どもの頃から、ぼんやりとですが、社会とか人々の生活というものに興味がありました。
思い返せば、小学校の課題で、図画工作や読書感想文などで表彰されることはほとんどなかったのに、「同和問題の作文」だけは、毎年、市の作文集に掲載されていました。ただ、いつも、先生がこっそり「載せていいかな」と告げるだけで、匿名の掲載だし、みんなの前で表彰されることもありませんでした。人権問題は、ひとまえで語ってはいけないという雰囲気がありました。
高校までそのような環境にいたのですが、大学では、これまでの疑問に答えてくれるような授業にいくつも出会えて、しかも「人権問題、おおっぴらに話してええんや!!」ということに衝撃を受けました。ゼミ選択では、迷わず差別問題を学ぶゼミに決めました。
卒論は、「穢れ」意識について考えたくて、葬送をめぐる研究にしました。町内で葬式を出していた時代のことを聞き取りさせてもらったり、葬儀社にも行きました。卒論の調査があまりにも楽しかったことと、差別問題についてより本格的に考えたいと思ったことが、研究する道にすすむきっかけになりました。

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部落差別の構造を描く

私の研究分野は、社会学です。社会学にもいろいろあるのですが、私がしているのは社会問題を考える社会学で、そのなかでもとくに「部落問題」を専門にしています。いまの日本社会のなかで、どんなふうに部落差別っておこっているのか、だれが差別してるのか、差別の直接的・間接的な不利益って何かといったことについて、調査をしてデータを集めていきます。他の研究者の調査結果も参考にしながら、部落差別の構造を描いていくのが私たちの仕事です。
私の場合は、部落出身者との結婚を避けるという行為、つまり「結婚差別」といわれている現象から、差別の構造を明らかにしようとしています。結婚差別の研究は、社会問題の社会学でもあるのですが、一方で、結婚を研究する家族社会学でもあるので、その両方の視点から考えるというのが、私の立場です。
調査方法は、主に聞き取り調査です。調査のあとは、録音した音声をひたすら文字起こしします。いまはICレコーダで録音して、パソコンのアプリケーションで文字起こししますが、私が院生だった頃は、カセットテープレコーダで録音して、「トランスクライバー」という大げさな名前のテープ起こし機で「テープ起こし」してました。「がっちゃんこ、がっちゃんこ」と、すごい音がします。「テープ」は、もはや死語で、いまは「データ起こし」「文字起こし」と言いますが、いまだに「テープ起こし」と言ってしまいます。

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進路迷走、身体不調…、でも「調査だけはやめない」

高校卒業後の進路は、ファッションデザインの専門学校に行くか、大学に行くか悩みましたが、「短大」か「四大」に行くものだという思い込みがあって、大学を選びました。とはいえ、ファッション業界もあきらめきれずに、就職活動ではアパレル企業をまわりました。就職氷河期でしたが、20社のうち1社だけ、総合職に内定をもらいましたが、卒論がすすめばすすむほど、もっと調査を続けたいという気持ちが大きくなって、4回生の冬に進学を決めました。遅すぎる決断でした。そのため進学が1年遅れましたが、浪人中から調査チームに入れてもらってテープ起こしのアルバイトをしたり、受験のための読書会をしたり、それなりに充実していました。
修士課程のあとは、研究機関に就職したものの、雇用条件が悪くて辞めざるをえませんでした。でも、この職場ではとてもいいことがありました。研究室の引越しのために、私の書棚を一時的に廊下に出しておいたら、そこで子猫が生まれていました。家に連れて帰って15年、私の親友です。
仕事を辞めて、再びブランクができてしまいましたが、甘味処でアルバイト(おやつ付き)しながら、博士課程の受験準備と調査をしていました。学会発表のとき、「所属なし」で報告しましたが、ほんとうは甘味処「甘党M」所属でした。
また、中学から20代半ばまで摂食障害でしたし、30代では婦人科の不調を抱えて、仕事量を少なくしていた時期もありました。けれども、いずれのブランクの時期も、「調査だけはやめない」と決めていました。

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2.ほっとするとき・こと・ものは?

マグロの一本釣りは冗談です

ふざけて、「マグロの一本釣りが趣味です」と、ウソを言おうと思って。マグロ抱えてる写真も撮ろうかと思いましたが、ちゃんとホントのことをお話ししたいと思います。
ふつうの趣味ですが、歩くのが大好きです。つれあいと2人で、大阪じゅうを歩き回っています。ハルカスや中津の空中庭園から大阪の風景をみると、「だいたい、見えてるところは歩いたな」って思います。つれあいも研究者なので、お互いの研究のアイデアを話し合う時間にもなってます。よく歩いて、入浴剤いりのお風呂に入って、着圧靴下を履けば、すっきりします。
あと、ファッション業界をめざしていたこともあり、手芸や洋裁が大好きなんですが、時間をとってしまうことと、目が疲れるので、いまは封印しています。
それから、大学生のときはメタル系の音楽サークルに入ってましたが、いまはスペイン語圏の音楽が大好きです。音楽をきっかけに、歌詞の意味や背景となる社会のことが知りたくなって、メキシコ人の大学講師の先生にスペイン語とラテンアメリカの社会問題について教えてもらうようになったのですが、先生のすすめで、昨年1ヶ月だけですが、メキシコに語学の勉強にいきました。一度でメキシコが大好きになってしまい、いまは、辛いことがあったら、メキシコのことを考えています。写真のCDは、スペイン語圏の音楽です。授業前に気持ちをあげるための定番曲もあります。ラテンの大スターの気持ちで、大教室に行きます。

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3.女性研究者のメッセージ

人に頼るのも、自立のうち

女性研究者たちをみていると、婦人科系の病気や問題を抱えていたり、女性だけに限りませんがセクハラやアカハラの問題があったり、これも女性だけではありませんが「両立」の問題があったり、それから、学内や図書館でのちかんといった性被害の問題など、女性に偏りがちな問題というものがあると思います。
人権問題研究センターも女性研究者支援室も、そのような課題を解決するために活動しているわけですが、しかし、私自身が「ひとを頼れる」人でないと、学生や他の研究者たちに「相談してね」「ひとを頼っていいんだよ」というメッセージをいくら言っても、うさんくさくなってしまうと思っています。なので、「人に頼るのも、自立のうち」「相談できるっていうのは、仕事の才能のひとつ」ということを、伝えたいです!