Profile
学部・大学院とも大阪市立大学で学ぶ。修了後、子育てと教育・研究の両立をはかる。専門は英文学・医療英語。現在はギリシア・ローマの古典語も研究している。
芸術との出会い
子どもの頃からバレエ、ピアノ、絵画、中学生になった頃からオーケストラでオーボエ、とさまざまな芸事をやってきました。高3のぎりぎりまで音楽とどちらに進むか迷って、結局、英文学に進みました(音楽は大学のオーケストラでやるのもいいな、と思ったのです)。それでも今までに自分が打ち込んできたことを生かしたかったので、文字を扱うという狭い意味の文学ではなくて、総合的に芸術を扱うような研究がしたいな、と思っていました。そこで、詩・演劇・小説という英文学の3つのジャンルの中から演劇を選びました。卒業論文でとりあげたのがシェイクスピアの喜劇『十二夜』です。
研究者になるまで
学部を出てすぐに結婚しました。大学院の入学と同時でした。夫も同じ年に大学院に入りました。いわゆる学生結婚です。そして後期博士課程の3年目に第1子を出産しました。その後、5年間、非常勤講師を勤めましたが、その間にふたりの子どもを産みました。専任教員になってからさらに第4子を産みました。目の回るような忙しさでした。それは今も続いています。出産に際して仕事を辞めずに済んだのは、非常勤の頃は大学院の先輩が、勤めてからは文学部の先生方が助けてくださったからです。大学教員という仕事は、制度を利用して何とかなるような業務内容ではないものですから、先輩や先生方の個人のご好意に甘えさせていただきました。このご恩は一生忘れません。ただ、このようなやりかたは、当時は致し方なかったにせよ、特定の個人のご負担が一時的に増したわけで、いい方法とは言えません。いまはもう少し制度が整い、使いやすくなってきているかとは思います。
英語教育と古典語の関係
英国演劇を、広く舞台芸術ととらえて研究してきました。具体的には、シェイクスピア劇のバレエ化に興味を持っていました。ただ、それだけでは物足りないとも思っていました。これぞライフワークだと思える研究に出会ったのはもっと後のことです。恩師がいっしょにラテン語を読まないか、と誘ってくださいました。ちょうど私がその先生のおられる大学で非常勤講師として教えるようになった頃のことです。先生は、教えに来たついでに勉強して帰ったらどうだ、と言ってくださいました。途中からギリシア語も加わって、毎週、ラテン語とギリシア語の詩を読むようになりました。もう何年も続いています。
学生には長い夏休みや春休みがありますが、私たち教員の研究に休みはありません。学舎の入り口が閉まろうと、子どもの学校が休みになろうと、研究会は開かれます。じつはその先生に学部で教わったときにはおっかない印象しかなかったのです。それがいまだに毎週根気よく教えてくださるとは。恩師のありがたさは卒業してからわかるものですね。大変感謝しています。私も期待に応えようと、子どもを連れて行ってでも古典語を読んでいます。いままでにオウィディウスの『変身物語』(ラテン語)、ウェルギリウスの『アエネーイス』(ラテン語)、エウリピデスの『ヒッポリュトゥス』(ギリシア語)、ホラーティウスの『カルミナ』(ラテン語)を読みました。
英語の教師が古典語をやるの?趣味?と思われるかもしれませんが、西洋諸語を研究するのに古典はとても大切です。英語の語彙のじつに6割はラテン語起源です。古典を学ぶと英語の成り立ちがじつによく理解できるようになるのです。国語を学ぶのに古文・漢文がとても大事であるのと同じです。研究となると他人の研究論文ばかり読む人がいますが、原典を原語で読まないといけません。そのためには基礎=文法をしっかり学ぶことが大切です。私は医学英語・看護英語も担当していますが、古典語を学んでいると、医学生・看護学生に英語の語彙を、その成り立ちから説明できるという利点もあります。
いまはシェイクスピアに西洋古典がどのように影響を与えたかを考察中です。近いうちに単著にまとめられればと思っています。
子どもとともに
4人も子どもがいると息つく暇もありません。それに毎週の研究会に備えて、土・日は予習です。どれだけ勉強が好きなんや、と親にも家族にもあきれられています。それでもそうして休むことなく続けていると、業績はどんどんあがります。私は子どもがいるからさぼっていると思われたくない一心で書きまくってきましたが、気がついたら著書が10冊にもなっていました。子どもの人数と、著書の冊数は、かなり多い方ですね。
子どもがいると自由が利かないことが多く、我慢の連続ではありますが、楽しいこともまた多いものです。それぞれの子どもが自分の好きなことに打ち込んでいるのを見守るのは、楽しいことです。一番上の息子は虫が好きで、ケンタッキーの洞窟に潜ってまで虫を観察してくるような子、2番目は器械体操娘、3番目は陸上男子、そして、4番目はお絵描き・工作娘です。子どもたちのわくわく!を親もいっしょに体験できるのが楽しいものです。
夫も保育園の送り迎えなど、じつによく協力してくれました。今では自分もマラソンにのめり込んでいるので、私は5人の子どもの面倒を見ているようなものですが。
長く教員をしていると、卒業生もどんどん巣立っていきます。卒業後も連絡をしてきてくれる人もいます。海外で働く卒業生もいますが、不思議と地理的に遠い人ほどよく連絡してくれるようです。ときには卒業生が研究室に訪ねてきてくれて、職場での活躍の様子を教えてくれます。卒業生も私にとっては子どものようにかわいいものです。私は本当に子だくさんの幸せ者です。
オーボエとバレエ
学部の頃はオーケストラに入ってオーボエを吹いていました。夫はオーケストラのコンサートマスターでした。オケ夫婦から生まれた子どもは楽器ができるのかとよく聞かれますが、上の子があまりにもやんちゃでヴァイオリンを叩き割りそうな勢いだったので、家庭でアンサンブル、などという夢も破れました。
大学院の頃は、結構バレエに打ち込んでいました。プロのバレエ団(法村友井バレエ団)の『眠れる森の美女』『バフチサライの泉』の舞台に立たせていただいたこともあります。もっとも少し歩いてあとは立っているだけ、というような端役でしたが。妊娠をきっかに止めてしまいましたが今ではいい思い出です。
こだわりグッズ
次男がパリのディズニーランドに行って買ってきてくれた万年筆。おみやげ用なのでブランドもわからず、カートリッジを頼りに同じものを探すと、なんとモンブランのインクと一緒でした。モンブランのロイヤルブルーのインクを入れて、ギリシア語を手で写して、心に響かせるように読んでいます。
継続して勉強を続けること・ときには周りに甘えること
なにも女性に限らず、研究者は孤独なものです。いくら勉強していてもそれを認めてもらえるとは限りません。妊娠や出産の負担ののしかかる女性研究者は、くじけそうになる機会も多いかと思います。でもチャンスは突然訪れるものです。私の場合、いっしょに共著を書かないか、と恩師が誘ってくださったときに、すぐに研究論文を出せたのがよかったと思います。この人に頼めば期限に間に合ってきちんとした論文を書いてくれるとわかっていただけると、つぎつぎに執筆のお誘いもくるようになります。そうして書き溜めていると、どこそこで教えてくれないか、というようなおはなしも出てくるものです。どのようなライフ・イベントがあろうと、継続して勉強を続けることが大事です。
それと、他人の評価や研究の流行にふりまわされないことです。自分の研究を評価する基準は自分自身だ!と心得てください。行き詰まったときには基礎に立ち返ることも大事だと思います。たとえ後期課程に進んでいても、教職に就いていても、迷ったら学部で習ったような基礎基本に立ち返る。文学を学ぶ人は、文法をしっかりやって、信頼できる先生について訳読の訓練を積むこと。ここをおろそかにしては何も積み上がらないものです。出産の後など、気持ちばかりが焦るようなとき、周りの雑音は気にせず、どうか落ち着いて初心にかえってください。
ただ、それは自分の殻に閉じこもることではありません。信頼できる人にはときには甘えてもいいと思います。本学にはすぐれた信頼できる先生が多くいらっしゃいます。その先生方のご指導を仰ぎ、精一杯勉強することはもちろんですが、ときには弱音を吐いたりして甘えてもいいのでは?きっと先生方は長い目で見守ってくださると思います。