Profile
1980年生まれ。2009年、大阪市立大学大学院経済学研究科後期博士課程修了、博士(経済学)。同志社大学政策学部講師などを経て、2014年から大阪市立大学経済学部准教授。専門は社会政策で、最近の関心は「日本における人口認識の史的経緯」。
社会の矛盾を捉えなおしたい
もともと大学院進学という進路は選択肢になかったのですが、演習形式の授業を通じて主体的に学ぶ楽しさに気づいたことが転機だったと思います。専門演習では社会政策のゼミに所属し、女性の社会進出と少子化問題の解決を両立することは難しいといった少子化対策をめぐる矛盾について、もっと知りたい、調べてみたいと思いました。就職活動もしたのですが、着手していた卒業研究が楽しかったことから大学院への進学を決意。卒業論文では、日本の少子化行政の動向、企業や地域の先進的な取り組みについて整理し、ファミリーフレンドリー企業表彰を受けた企業の人事担当者や駅型保育園の運営者、地域の子育て支援事業の担当者へのインタビューもしました。卒業論文は、頭で書いたというよりは、足で書いたという感じです。
女は損なのか?
私は、男女共同参画社会基本法が施行された1999年に大学に入学しました。男女共同参画社会の実現に向けた政策論議や報道が過熱した時期です。女性のキャリア、仕事と子育ての両立といったテーマは将来の自分に直接関わってくる身近な問題であると感じ、自分が女性であることに意識を向けるようになりました。女は損なのか、女しか産めないという生物学的な現実に社会がどう向き合えばよいのか、といったことについて思いを巡らせました。大学院に進学してからは、先行して出生率の低下を経験している諸外国の事例について学ぶところから、人口問題と社会政策を歴史的に関連づける作業に取りかかりました。具体的には、19世紀終わりから20世紀はじめの時代思潮であった優生思想に注目して、人口の<質>への関心が社会政策の形成、発展にどのような影響を与えたのか、というテーマに取り組みました。優生思想は、わかりやすくいえばよりよい<生>のための学問。人の能力や人格の形成をめぐって、生まれか育ちか(nature or nurture)ではなく、生まれも育ちも(nature and nurture)重要というのが今日の通説ですが、当時の優生論者は人間の先天的な素質の改善=生まれを重視する優生学(eugenics)の立場と人間の後天的な環境=育ちの改善を重視する優境学 (euthenics)の立場にわかれて激しく対立しました。このイギリスとアメリカを中心に世界的な広がりをみた優生-優境主義は、生殖や貧困、格差の問題をめぐる政策議論に取り入れられることで、社会政策の形成、発展に大きなインパクトを与えたと考えられます。
もう一つの顔、俳人として
詩が身近にある環境で育ちました。私が発した言葉を母が五七五に整えてくれるというふうに、俳句をやっていた母との言葉遊びから詩のある生活がはじまりました。新聞俳壇に投稿した俳句もどきが入選したり、賞をいただいたりすると周囲が褒めてくれる。子どもの頃は褒められるのが嬉しくて、作品を作っていたという感じでした。今は、俳句と向き合う時間は論文を読んだり書いたりといった論理的な長文から解放される時間という感じでしょうか。研究に取り組む自分と俳句に取り組む自分がいて、シーソーみたいにして精神のバランスを保っているような気もします。俳句より少し長い、五七五七七の短歌も作ります。
動物のぬいぐるみ
ぬいぐるみが大好きです。写真のゾウはベトナム、パンダは中国、ネズミはアメリカ、ウサギはドイツからやって来ました。旅先や通りがかりに立ち寄った店で買ってしまったぬいぐるみ、いただいたぬいぐるみたちに囲まれて暮らしています。リラックスできるので、研究室にもぬいぐるみを置いています。動物園や水族館に行くのも好きで、愛らしい生き物を眺めていると幸せな気持ちになります。
同僚や学生さんとの交流
常につまずいているような感じの研究生活は、孤独に陥りがち。職場での同僚や学生さんとの交流もほっとできるひとときです。同僚とは研究の話だけでなく、雑談もします。いわゆる、おしゃべりです。学生さんと課外で交流する機会もあります。一部の学生さんの間で「おかんキャラ」と言われているようなことを耳にしましたが、講義の内容に関する質問ではなく、進路や友人関係の悩み事をもって研究室を訪ねて来る学生さんもいます。
楽しむことをチカラに
どうしたら楽しめるか、というふうに考える癖をつけるといいです。もちろん生きていたら嫌なこと、辛いことにも直面しますが、だからこそ、何事においても出来る限り楽しめるような方向づけを心がける。どうせなら楽しみながらやったほうがいい、という姿勢こそが人生を切り開いていくような気がします。自分が女性であるということについてもそうで、振り返って、女性に生まれてよかったと思えるような人生にしたいですよね。