Home > インタビュー > Researcher > Vol.12 大嶋 寛先生

reseacher-vol12_header

  • reseacher-vol12_keyword1
  • reseacher-vol12_keyword2
  • reseacher-vol12_keyword3
  • reseacher-vol12_keyword4

Profile

未だにバスも通わない京都の田舎、美山町芦生(あしゅう)に生まれる(尤も、今、バスが通ったとしても、乗る人口がない)。1977年9月大阪市立大学大学院工学研究科博士課程中途退学。1977年10月より大阪市立大学工学部助手、助教授を経て、1999年より教授。助手時代に工学博士の学位を取得。専門分野は化学工学・生物化学工学・分離工学・生物分離工学。

1.研究との出会

「役に立つこと」と「科学的な理解」  一貫して、研究は楽しい

小学校3年生ぐらいの時、リモートコントロール(有線)で走る自動車を作りました。車輪、ギア、プーリ、モーター、スイッチ、電池ボックスなどは、壊れたオモチャやラジオから回収した部品の寄せ集め、車体は無垢板とベニヤ板で工作しました。決して美しいものでは無かったけれど、立派に直進、右旋回、左旋回できました。バックは難しくてできませんでした。どのようにすれば右や左に回るかというようなことを考えることが面白かったと記憶しています。設計図と称して、図面(絵)も書いていました。幼い頃のこのような経験が、研究との出会いであったと思います。高校生のころは、考え事をしながら大学のキャンパスをゆっくりと歩いている自分の姿を想像したりもしました。その割には受験勉強というものをしなかったので、予備校も経験しました。根を詰めて受験勉強をしなかった御陰か、私なりの学習意欲や創造力を失わずにすみました。

reseacher-vol12_photo2

大学4年生と大学院生のときは指導教授から研究テーマが与えられましたが、あまり細かなことは仰らなかったので自分で何をするかを考えないといけませんでした。博士課程半ばで助手に採用していただいたのですから余計に自分で考える責任がありました。これが課題設定能力を磨くことになったと思います。とにかく、与えられた固定化酵素(水溶性である酵素を水不溶性の担体に結合して、酵素の再利用や酵素反応の連続化を図るための技術)というテーマついて、酵素の熱安定性・操作安定性という観点から研究テーマを設定し、「役に立つこと」と「科学的な理解」をキーワードに研究を進めました。その後、一貫して研究は楽しいと思いましたが、何時になっても課題設定能力を磨くことは重要だと思います。

研究としては、1)酵素の工業的利用・固定化酵素、2)バイオマス(生物資源)の利用、3)酵素・微生物による有用物質の生産と環境負荷物質の回収、4)バイオミネラリゼーション(卵の殻など)、5)医薬に代表される有機化合物の晶析について研究してきましたが、現在は2)、5)のウェイトが高くなっています。

reseacher-vol12_photo1

 

2.ほっとするとき・こと・ものは?

駈歩はじめ! ― 外へ出て、自然の中で乗馬を楽しむ

ほぼ毎週、土日の一日、ワイフと乗クラブ(クレインオリンピックパーク)に行っています。乗クラブにいる間は馬に上手に乗ることと、レッスン時間に間に合うように装(鞍や頭絡(とうらく)、肢巻などをに装着)すること、安全にを厩舎から出したり戻したりすることだけを考えて、仕事のことは考えていません。したがって、身体だけではなく、心の健康維持に役立っていると思います。ただ、子どもたちや若い人のようなスピードでは上達しませんので、それはそれで問題です。囲碁を楽しんでいる人も、勝負に負ければ、それが夢に出てくるほどに残念で、寝ていても心は休めてはいないのです。なのに、上位者は、『下手な考え休みに似たり』などと、嵩にかかってくる。ストレスのスパイラルにはまる構造です。一方、乗は動物が相手ですから、囲碁よりも心の安らぎを得やすいように思うのですが、どうでしょうか。

もっとも、上達すれば指導も厳しくなるのは世の常。なにしろ、オリンピックパークのコーチ陣は、オリンピック選手、アジア大会優勝者、上位入賞者、国内ランク上位者などが揃っているのですからね。乗の目的としては、競技で良い成績をとることを目標としている人も多いですが、私は安全に外乗できるようにはなりたいと思っています。外乗とは、クラブの敷地から外へ出て、例えば、湯布院の草原散策、カナダのロッキー山脈トレッキング、モンゴル草原を駆けるなど、自然の中で乗を楽しむことです。

さて、不思議なことに、乗クラブに通っている人は男性よりも女性の方が、年齢を問わず多いのです。これは、女性活躍社会の推進という観点からも、女性の特性という観点からもなぜかわかりません。どなたか、ご教授下さい。

reseacher-vol12_photo3

 

後進へのメッセージ

課題設定能力を磨いて、世界で誰もやっていない研究を

成果を出している研究者個々人は、それぞれ立派に活動しておられると思うので、特に言うことはありません。ただ、世界のどこかでやっている研究を、日本でやってみようというようなことは考えないで、世界で誰もやっていない研究を進めるべきだと思います。オリジナリティにはレベルがあって、論文になる以上はオリジナリティがあります。しかし、「枯れ木も山の賑わい」にならないようにしなければいけません。『枯れ木も山の賑わいではあかんで』とは、昔、私の指導教授が仰ったことですが、非常に怖い言葉です。

学生諸君には、課題解決能力を養成するために、広い分野の知識を身につけること、また、課題設定能力を養成するために、常に考えるという訓練をすることを勧めます。能力を活かして幸せになって下さい。乗では、コーチから 『歩度をのばせー!』 と声がかかります。今まで、常歩(なみあし)あるいは速歩(はやあし)で、比較的ゆっくりと動いていた状態から一瞬の扶助(に与える相図)で、即座に加速せよという命令です。その扶助は、それまでに、上での自身のバランスを保って、が加速する準備ができていることが重要で、そうでないと効力を発揮しません。学生諸君も、今のうちに準備せよ。さぁ、「社会に出て 、歩度をのばせー!