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Vol.9 古久保さくら 先生

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Profile

1992年 京都大学農学研究科 博士課程修了。1998年より北海道大学助手を経て、2000年10月より大阪市立大学人権問題研究センター准教授、2003年より創造都市研究科准教授。専門は近現代女性史・ジェンダー論。主要関心は、新中間層でない女性を中心とした社会史ならびに女性運動・フェミニズムのあり方。

1.研究との出会

「なんじゃそれ??」のびっくり状態

「イマドキ女性差別なんてありっこないじゃん?」というのは、35年前の私のせりふです。「参政権だってあるんだし、受験だって男女平等だし。女子マネになりたい人が女子マネになっているんだし(自慢じゃないが、私は高校ではサッカー部のマネージャーをやっておりまして、お正月の全国大会のプラカードもちもやったのでした)、主婦になりたい人が主婦になっているんだし(私の母は専業主婦でした)、かまわないじゃん。ニッポンは自由な国だし?」そんな私が女性学・ジェンダー論をやりはじめることになったのは、ひとえに出身大学と学友の「おかげ」かもしれません。1980年に入学しましたが、女子トイレが男子トイレの中にあるという環境や、トイレの中のエレクトしたペニスの落書きが1年たっても消されないという状況、学内でのレイプのうわさとそれを語るときの学友男子の被害者への差別的な態度、「女の子に紹介できる就職口はないよ」とのたまう男性教員と、「就職口は教員か弁護士か公務員しかないのよ」と自衛を考える先輩女子。
リベラルな家庭で温室育ちの私は一つ一つ「はぁ?なんじゃそれ??」(すでに河内弁に染まっておりました)とびっくり状態。「いやー、女の子ってタイヘンなんや!!」と思って、フェミニズムや女性問題に関心を持つようになりました。

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「女性の人生は社会的意味がない」の?

フェミニズム・女性問題に関心をもつようになったので、その延長で卒業研究では素朴に女性史を研究したいと思いました。そう表明すると、周りの院生・教員から「女性史をやって何の社会的・学問的意味があるのか?」と真顔で聞かれ、「女性の人生は社会的意味がないとされているのか?」とショックを受け、いよいよ女性のこと(だけ)を研究しようと決意しました。
女性学・ジェンダー論研究では、結婚や出産といった個人的経験、職場や地域でのさまざまな人との出会いや軋轢といった社会的経験、そのすべてが研究の対象になり、思考の深まりにつながります。たとえば、母であることが強く期待されることの息苦しさや、性暴力に対するおびえ、といった自分自身が感じる不安や戸惑い、これを社会的なものとして言語化していくのが、女性学・ジェンダー論の真骨頂だと思っています。
1990年代から女性学・ジェンダー論のプロパーとしてのポストが大学に作られるようになりました。自分自身が女性史研究を始めたときには、それが職につながるとは思ってもいませんでしたが、女性としての自分がおかれた状況の歴史性を知りたいと思って研究してきたなかでポストにつくことができたのは、非常に運がよかったと思います。
現在の研究テーマの一つは「婦人保護施設から見た戦後日本の女性の貧困」というものです。敗戦後の売春状況やそこにかかわった女性たちの生活実態をあきらかにし、性暴力と売春の連続性に留意しつつ、当時の女性支援者たちの活動・運動や女性福祉政策を、どのように評価することができるのかを考えたいと思っています。

 

2.ほっとするとき・こと・ものは?

週40時間以上は働かない!

週40時間以上は働かない!ように心がけています。これは、家事や育児といったケア役割の時間を保障する働き方が基準にならない限り、ジェンダー平等はありえない、という私の研究上の信念を実践すべきと思っているからです。上記を原則として主張したいのですが、他方で女性学・ジェンダー論の研究は、自分の人生や生活と直接関わる領域を対象としているので、明確なオンとオフという区分があるわけではないようにも思います。

ジェンダー平等へのアクション

大学業務以外に、NPO法人ウィメンズアクションネットワークの理事として、女性運動の情報やフェミニズムの議論をwebで発信するNPO活動を行っており、このサイト運営業務で忙しくしています。また、人権侵害に反対するデモにも出かけますし、ジェンダー平等をめぐる集会や勉強会にも参加したりもします。こういうのは余暇活動といえるのか、研究活動の一環といえるのか、難しいところです・・・が、これらの活動が大学教員業務のストレスの解消になっているところもありますし、これらの活動でのストレスが、大学業務で解消されているということもあります。
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妄想旅行へ

さまざまな活動で忙しくなりすぎ、「もうイヤ」状態になると、妄想旅行に逃避しています。どのホテルに泊まって何を食べようか、どのルートでどこを見ようか、何を買おうか、等等、極めて具体的な計画を立てるべくガイドブックやサイトからの情報収集と分析に励み、すでに世界中の(妄想)旅行計画ができており、「お金のかからない趣味でいいねえ」と同僚からからかわれているところです。

3.女性研究者のメッセージ

己の道を探し続ける

やりたいことやったもん勝ち。(忍玉乱太郎のテーマソングの音程でどうぞ)と思います。研究上の自分のこだわりがどこにあるかを常に自分に問いかけて、やりたい研究を進めていただきたいな、と思います。自分の一番のこだわりが分かり、それを研究論文に反映できるようになってくるころには、道は開けていくと思います。そういう研究論文は、ひときわ迫力があって、読み手を魅了するのです。
「やりたいことやったもん勝ち」というのは、研究についてだけではありません。矛盾あるこの社会のなかで、女性が成功するのはたやすいことではありませんよね。でも、何を「成功」とみなすのか、自分のなかで問いかけ、納得いくまで考え続けるとき、自分のなりたいもの、送りたい人生の姿が見えてくるように思います。他人の物差しで自分を計るのではなく、自分の物差しをつくり、自分にとって望ましい人生を築くために、一方では多様な人々から刺激を受けつつ、他方では他人の意見に流されることもなく、己の道を探し続けることが、人生の醍醐味でしょう。
さらにいうなら、多くの人がそんなふうに人生を選択できるように、ベーシックインカムが必要だ、と私は思っているのです。